パート・アルバイトで働く方にとって「130万円の壁」は、社会保険の扶養にとどまれるかどうかを左右する大きな分岐点ですね。実はこの「130万円の壁」の判定方法が、令和8年4月から大きく変わったのをご存じでしょうか。これまでは給与明細などの「実績」で年間収入を判定していましたが、新方式では労働契約上の「見込み収入」で判定する仕組みに切り替わっています。この記事では、制度変更の具体的な内容と、パートで働く方・事業主それぞれが押さえておきたいポイントを、社会保険の被扶養者認定の実務に沿って解説します。
「130万円の壁」とは―まずおさらい
会社員や公務員に扶養されている配偶者や家族は、年間収入が一定額未満であれば健康保険の被扶養者・国民年金の第3号被保険者として扱われ、自分自身で社会保険料を負担する必要がありません。この「一定額」の基本となる基準が年収130万円未満です(対象者によって基準額は異なります。詳しくは後述します)。年収がこの基準を超えると、パート先の社会保険に加入するか、国民健康保険・国民年金に自分で加入する必要が生じ、手取りが一時的に減ってしまうことから「130万円の壁」と呼ばれてきました。
この壁への対応として、2023年10月からは「事業主の証明」により、繁忙期の残業などによる一時的な収入増であれば、130万円を超えても引き続き扶養にとどまれる仕組みが設けられていました。令和8年4月の見直しは、この仕組みをさらに一歩進め、そもそもの年間収入の「判定方法」自体を変えるものです。
令和8年4月から何が変わったのか―「見込み収入」方式への転換
厚生労働省・全国健康保険協会が令和8年3月9日付で発出した事務連絡により、認定日が令和8年4月1日以降となる被扶養者の年間収入判定は、次のように取り扱われることになりました。

就業調整対策としての「予見可能性」の向上
従来の「実績」による判定では、いざ収入を計算してみたら壁を超えていた、という事後的な不安がつきまとい、それを避けるために労働時間をあらかじめ抑える「就業調整」につながりやすいという課題がありました。新方式では、労働契約書や労働条件通知書に基づく時給・所定労働時間・所定労働日数から見込まれる年間収入で、あらかじめ判定します。契約時点で扶養の範囲内かどうかが分かりやすくなる点が大きな変化です。
残業代など臨時の収入の扱い
今回の見直しで特に実務上重要なのが、残業代の取り扱いです。労働契約上に明確な定めがなく、契約段階では見込むことが難しい時間外労働に対する賃金(残業代等)については、年間収入の見込額に含めないこととされました。つまり、基本の契約内容が130万円未満の範囲であれば、繁忙期に残業が発生して結果的に実際の年収が130万円を超えたとしても、直ちに扶養から外れるわけではないということです。
Q. パートの契約は月収10万円程度ですが、繁忙期の残業で年収が140万円になりそうです。扶養から外れますか?
A. 労働契約上、時間外労働の支払いが契約に明確に定められていない場合、その残業代は年間収入の見込みには算入されません。契約内容自体が130万円未満の範囲であれば、扶養認定は原則として維持されます。ただし、実際の収入が「社会通念上妥当な範囲」を明らかに超えていると判断される場合には、認定の見直しが行われることもあります。
対象となる基準額は年代によって異なる
「130万円の壁」という呼び方が定着していますが、実際の基準額は対象者の年齢や状況によって異なります。あわせて確認しておきましょう。

大学生年代にあたる19歳以上23歳未満の方は150万円未満、60歳以上の方や一定の障害がある方は180万円未満が基準となり、それ以外の方が130万円未満というのが基本の整理です。ご自身やご家族がどの区分に当てはまるかによって、実務上の判定ラインが変わってくる点に注意が必要です。
手続きに必要な書類
新方式で被扶養者認定を受ける際には、次のような書類の提出が求められます。
- 労働条件通知書など、時給・所定労働時間・所定労働日数が確認できる書類
- 給与収入のみで年間収入が基準額未満である旨の申立書
一方で、シフト制などで所定労働時間が明確に定まっていない場合や、労働契約の期間が1年未満の場合、複数の勤務先で働いており一部の書類が揃わない場合などは、見込み収入方式での判定が難しいため、これまでどおり給与明細や課税証明書などの「実績」に基づく判定が行われます。ご自身の働き方がどちらの方式に該当するか、まずは勤務先やパート先の担当窓口、または加入している健康保険組合・協会けんぽの窓口に確認するのが確実です。
認定後に実際の収入が見込みと異なった場合
見込み収入方式で一度認定を受けた後、実際の年収が見込みと異なるケースも当然出てきます。この点についても取り扱いが整理されています。実際の収入が基準額をわずかに上回る程度で「社会通念上妥当な範囲内」と判断される場合には、あらためて認定を取り消す必要はないとされています。他方で、労働契約の内容が実態と大きくかけ離れていた、あるいは契約上の労働時間が意図的に低く記載されていたなど、当初の申立てに瑕疵があると認められる場合には、さかのぼって認定が取り消される可能性があります。「社会通念上妥当な範囲」の具体的な金額基準は示されていないため、大幅な乖離が生じそうな場合は、早めに勤務先や保険者に相談しておくと安心です。
「106万円の壁」との違い
同じ「年収の壁」でも、令和8年10月に賃金要件が撤廃される「106万円の壁」とは制度の位置づけが異なります。106万円の壁は、従業員数など一定の条件を満たす企業でパート等が自ら社会保険に加入する基準に関するものである一方、今回取り上げた130万円の壁は、家族の扶養に入れるかどうかという被扶養者認定の基準です。両方の制度が並行して動いていくため、ご自身の勤務先の規模や働き方によって、どちらの制度が関係するのかを整理しておくことが大切です。106万円の壁の詳細は、以下の記事もあわせてご参照ください。
2026年10月から「106万円の壁」がなくなる―社会保険の賃金要件撤廃で何が変わるか
まとめ
令和8年4月から、社会保険の被扶養者認定における「130万円の壁」の判定方法は、実績ベースから見込み収入ベースへと切り替わりました。労働契約上見込めない残業代等が年間収入から除外される点は、繁忙期に労働時間を延ばしたい方にとって朗報といえます。一方で、判定に必要な書類や、認定後に収入が想定と大きくずれた場合の取り扱いには注意が必要です。ご自身の契約内容を確認し、不明な点があれば勤務先やご加入の健康保険組合・協会けんぽに早めに相談することをおすすめします。
本記事の内容は、2026年9月30日時点で施行されている法令等に基づいて作成しています。今後の税制改正等により内容が変更される場合があります。また、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・社会保険に関するご相談は、税理士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

