インボイス制度への対応がひと段落した今、会計・税務の現場で次に注目されているのが「デジタルインボイス」です。「請求書をPDFでメール送付すればデジタル化は十分」と思われがちですが、実はそれとは異なる仕組みです。この記事では、個人事業主や小規模事業者の方に向けて、デジタルインボイスの基本的な仕組みと、導入を検討する際の進め方を税理士の視点から解説します。
デジタルインボイスとは
デジタルインボイスとは、請求に関する情報を、売り手側のシステムから買い手側のシステムへ、人の手を介さずに直接データ連携し、自動で処理できるようにした仕組みのことです。国際規格である「Peppol(ペポル)」をベースにした日本版の仕様(JP PINT)に対応した会計ソフトや請求書サービスを使うことで利用できます。
よく混同されるのが、請求書をPDF化してメールで送る「電子インボイス」です。こちらは見た目のデータ化にとどまり、受け取った側は結局、金額や品目を会計ソフトに手入力する必要があります。一方でデジタルインボイスは、売り手の会計ソフトで作成した請求データが、買い手の会計ソフトに自動で取り込まれる点が大きな違いです。

Q&A:デジタルインボイスの疑問に答えます
Q. インボイス制度の適格請求書と、デジタルインボイスは別物ですか?
A. 別の話です。インボイス制度(適格請求書等保存方式)は消費税の仕入税額控除に関するルールで、適格請求書発行事業者の登録番号などの記載事項を定めたものです。デジタルインボイスは、その適格請求書を含む請求データを「どのような形式・仕組みでやり取りするか」という、データ連携の方法に関する話です。したがって、デジタルインボイスで送るデータにも、インボイス制度上必要な記載事項(登録番号・税率ごとの消費税額など)を正しく含める必要があります。
Q. 個人事業主でも今すぐ対応しないといけませんか?
A. 2026年10月時点で、デジタルインボイスの利用は義務化されていません。取引先から対応を求められていない限り、急いで導入する必要はありません。
ただし、普及が進めば将来的に取引先からの要請が増える可能性もあるため、「こういう仕組みがある」と知っておき、必要になったタイミングで動けるようにしておくことが現実的な備えになります。
デジタルインボイス導入の3ステップ
実際にデジタルインボイスを使い始める場合、おおまかに次の3つのステップで進めます。

- 会計ソフトの対応確認とPeppol IDの取得 利用中の会計ソフトや請求書サービスがデジタルインボイスに対応しているか確認します。未対応の場合は、対応するサービスの導入が必要です。Peppol IDは、デジタル庁に認定されたサービスプロバイダを通じて取得するのが一般的です。
- 取引先のPeppol IDの収集 請求を送りたい取引先のPeppol IDを集めます。あわせて、請求書の送付方法が変わることを事前に案内しておくとスムーズです。受け取る側になる場合は、自社のPeppol IDを取引先に伝えます。
- 対応サービスの選択 電子インボイス推進協議会(EIPA)のサイトでは、30社以上の対応会計ソフト・請求書サービスが確認できます。自社の事業規模や既存の業務フローに合ったサービスを選びましょう。
個人事業主にとってのメリットと注意点
デジタルインボイスの最大のメリットは、請求書の発行・受領にかかる手間を大きく減らせる点です。印刷・封入・郵送の手間や費用がなくなるほか、受け取った請求データを手入力する必要がなくなるため、入力ミスの防止にもつながります。
売り手と買い手が異なる会計ソフトを使っていても、Peppolという共通規格でやり取りできる点も、特定のベンダーに縛られない安心材料といえるでしょう。
一方で、注意しておきたい点もあります。導入にあたっては会計ソフト側の対応状況や利用料金を確認する必要がありますし、取引先の多くがまだ対応していない段階では、効果を実感しにくいかもしれません。
また、中小企業・小規模事業者向けの補助制度が用意される場合があるため、導入コストが気になる場合は活用を検討するとよいでしょう。
税理士として実務をみていても、デジタルインボイスは「今日から全員必須」という制度ではありません。まずは自分の会計ソフトが対応しているかどうかを確認しておき、取引先から打診があったときに落ち着いて対応できる状態にしておく、というスタンスで十分です。
なお、インボイス制度そのものについては、インボイス「2割特例」は令和8年分で終了―令和9年から始まる「3割特例」とはでも解説していますので、あわせてご確認ください。
また、デジタルインボイス導入時の費用負担が気になる方は、関連する補助金についての記事も参考になります。
まとめ
デジタルインボイスは、インボイス制度の記載ルールとは別に、請求データのやり取りを自動化する仕組みです。義務化はされていないものの、会計ソフトの対応状況を把握し、Peppolという共通規格の存在を知っておくことは、今後の業務効率化を考えるうえで無駄にはなりません。
インボイス制度の経過措置の見直しなど、関連する税制の変更とあわせて、今後の動向もチェックしておきましょう。
※本記事の内容は、2026年10月13日時点で施行されている法令等に基づいて作成しています。今後の税制改正等により内容が変更される場合があります。個別の税務相談については、税理士にご相談ください。

